要件定義で発注側がやること|ベンダー任せにすると何が抜けるか

システム開発の要件定義で、発注側が決めるべき四つの論点と、ベンダーに任せると資料から抜ける部分を解説します。要件定義書の読み方、会議に呼ぶ人、例外業務の扱いまで。

この記事でわかること

  • レビューで指摘しなかった箇所は合意として扱われる。読むべきは誤りではなく、資料に出てこない業務
  • 発注側にしか決められないのは機能ではなく、いまの業務をどこまで変えるかという線引きのほう
  • 業務を変える判断ができる人が会議にいないと、論点は出るのに決まらず数か月後に戻ってくる

永瀬

PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。

ふたば

サービス業の業務改革担当。販売管理システムの刷新で、要件定義の取りまとめを任された。

目次
  1. 要件定義が「ベンダーの作業」になった時点で起きること
  2. 発注側が決めるのは機能ではなく、業務をどこまで変えるか
  3. 要件定義書が厚いほど安心、ではない
  4. 例外業務の扱いが、後半の追加費用になる
  5. 会議の出席者で、決まる量が変わる
  6. 取りまとめる人が社内にいないとき
  7. 参考データと出典
  8. よくある質問

要件定義はベンダーが進めてくれる。会議に出て、出てきた資料を確認すればいい。そう考えて任せた結果、開発が始まってから「それは要件に入っていません」と言われる。

発注側が要件定義でやることは、資料を確認することではない。自分たちにしか決められない論点を、期限までに決めることになる。決めていない論点は、消えるのではなく、後半に追加費用と遅れの形で戻ってくる。

要件定義が「ベンダーの作業」になった時点で起きること

ふたば(サービス業の業務改革担当。販売管理システムの刷新で、要件定義の取りまとめを任された)

永瀬さん、要件定義を任されたのですが、実際にはベンダーさんが資料を作って、私たちがレビューする形で進んでいます。これでいいのでしょうか。

永瀬(PM専門エージェント)

進め方としては普通です。ただ、その形だと合意の中身が変わります。レビューで指摘しなかった箇所は、合意したものとして扱われます。発注側は決めたつもりでいて、実際には否定しなかっただけ、ということが起きます。

ふたば

指摘しなければ承認、ということですか。

永瀬

契約上はそうなります。半年後に「そこは要件定義で合意済みです」と言われて、こちらに反論する材料がない。よくある形です。

ベンダーが悪いわけでもありません。相手は聞いた内容を書いているだけで、聞かれなかったことは書きようがない。

ふたば

何を見れば防げますか。

永瀬

書いてある部分ではなく、書かれていない部分です。要件定義書を読むとき、発注側が探すのは誤りではなく空白のほうになります。

具体的には、現行業務のうち資料に一度も出てこない作業を数えてください。月末だけ動く処理、特定の取引先にだけやっている手順、システムの外でExcelを使って回している部分。この三つはだいたい抜けます。

ふたば

たしかに、そのあたりの話はまだ誰にも聞かれていません。

永瀬

聞かれないまま進みます。ベンダーは現行業務を知らないので、質問の対象にできません。要件定義で抜けるのは、難しい要件ではなく、社内で当たり前すぎて誰も口にしない業務のほうです

ふたば

そもそも、要件定義に十分な時間をかけている会社はあるのでしょうか。

永瀬

足りていない、という自己認識のほうが多数です。JUASの調査では、工期、予算、品質のどれが悪化した場合でも、その要因の最上位に「要件定義の難易度向上」が挙がっています。回答の割合は47.2%から51.0%で、次点の項目を上回ります。「要件定義の時間不足」も3割前後で挙がっています。

ふたば

では、期間を延ばせばいいのでしょうか。

永瀬

延ばした会社が楽になっているかというと、そうでもありません。日数が増えた分だけ会議が増えて、決まる件数は変わらない現場をよく見ます。足りていないのは日数ではなく、決められる人が会議に出ている時間のほうです

発注側が決めるのは機能ではなく、業務をどこまで変えるか

ふたば

機能の一覧は、ベンダーさんが作ってくれた表で埋まっています。

永瀬

機能一覧は埋まります。埋まらないのは、いまの業務のうち何をやめるかです。ここは発注側にしか決められません。

ふたば

やめる、というのは。

永瀬

新しいシステムに合わせて手順を変える範囲のことです。パッケージを入れるなら、製品の標準に業務を合わせるのか、いまのやり方に合わせて作り込むのか。この線引きが決まらないと、要件は増え続けます。

ふたば

現場は、いまのやり方を変えたくないと言っています。

永瀬

どの現場もそう言います。だから、この判断は現場に投げると必ず「全部残す」に着地します。そして作り込みが増え、金額と工期が膨らむ。

決めるのは、業務を変える権限を持っている人です。部長でも課長でもいい。とにかく、要件定義の会議の中で「それはやめます」と言い切れる人が要ります。

決めること決める人決まらないまま進んだときに起きること
標準に合わせるか作り込むか業務を変える権限を持つ人作り込みが積み上がり、当初の見積では収まらなくなる
初回リリースに入れる業務範囲事業側の責任者全部入りで計画され、後半で切る判断が炎上時に持ち越される
例外処理をシステムで扱うか手作業で残すか業務部門の実務担当と情シス開発の終盤に発覚し、追加費用として出てくる
既存システムとの連携範囲情シス連携仕様の確認待ちで、開発が止まる

ふたば

この表の判断、うちだと誰も自分の担当だと思っていません。

永瀬

そこが要件定義の実態です。技術の話は相手が持ってきますが、この四つは持ってきません。持ってこられないからです。

要件定義書が厚いほど安心、ではない

ふたば

分量が多いほど、詰められている気はしていました。

永瀬

逆のことが起きます。300ページの要件定義書を、業務部門の誰も読んでいない現場をよく見ます。読まれない資料は、承認されても合意になりません。

ふたば

では、どうすれば。

永瀬

2種類に分けてください。ベンダーが設計に使う本体と、発注側が判断するための決定事項の一覧です。後者は10ページに収まります。

決定事項の一覧に載せるのは、何を決めたか、誰が決めたか、決めた前提は何か、の三つだけです。前提を書いておくと、前提が変わったときに、その決定を見直す理由が説明できます。

ふたば

前提、というと。

永瀬

「初年度の取引先は300社を想定」「拠点は5か所のまま」といった数字です。これが変わると設計が変わる。書いていないと、変更が起きたときに誰も気付かないまま進み、テストの段階で表面化します。

ふたば

本体のほうは、読まなくていいのですか。

永瀬

全部を読む必要はありません。ただ、非機能要件と呼ばれる部分だけは目を通してください。同時に何人が使うか、夜間の処理は何時までに終わるか、障害のときにどこまで戻せるか。この三つは、あとから直すと作り直しになります。機能の追加は後からでも足せますが、性能と復旧の前提は後から変えられません

例外業務の扱いが、後半の追加費用になる

ふたば

例外処理は、たしかに誰も話題にしていません。

永瀬

要件定義の会議では通常の流れだけが語られます。受注して、出荷して、請求する。実務の負担は、その外にある例外のほうに寄っているのに。

ふたば

うちだと、特定の取引先だけ請求のタイミングが違います。

永瀬

そういうものが10個も20個も出てきます。要件定義でこれを洗い出す方法は一つです。担当者に、直近3か月で「いつもと違う対応をした件」を挙げてもらう。手順書からは出てきません。手順書に載っていないから例外なので。

ふたば

洗い出したあと、全部システムに入れるのですか。

永瀬

入れません。分けます。システムで扱うもの、手作業で残すもの、この機会にやめるもの。例外は洗い出しても減りませんが、扱いを決めておけば追加費用にはなりません。決めていない例外だけが、後半で仕様変更として出てきます。

ふたば

仕様変更になると、費用の話になりますよね。

永瀬

なります。その扱いはシステム開発の追加費用の記事に整理しました。要件定義の段階でできるのは、変更の総量を減らすことではなく、変更が出たときに「当初範囲に入っていたか」を判定できる資料を残しておくことです。

会議の出席者で、決まる量が変わる

ふたば

要件定義の会議、いまは情シスとベンダーさんだけで進めています。業務部門は忙しいので、決まったことを後から共有する形です。

永瀬

その進め方だと、後半で戻ります。共有された側は決めた実感がないので、動くものを見てから「これでは業務が回らない」と言います。悪気はなく、そのときに初めて具体的に見えるからです。

ふたば

呼べば出てくれるとは思うのですが、誰を呼べばいいのか。

永瀬

3種類の人が要ります。

  • 業務の実務担当。例外と現場の手順を知っている。若手でも構わないので、いちばん手を動かしている人を呼ぶ
  • 業務を変える判断ができる人。「その手順はやめる」と会議の中で言い切れる人
  • 情シス。既存システムの制約と、連携の可否を答えられる人

永瀬

この3種類のうち2番目が欠けると、会議は情報交換で終わります。論点は出るのに決まらない。決まらないまま次の議題に移り、3か月後に同じ論点がまた出てきます。

ふたば

決裁できる人は、毎回は出られないと思います。

永瀬

毎回でなくて大丈夫です。決める会議だけ分けてください。週次の定例で論点を溜めて、月に1回か2回、決める場に持ち込む。持ち込むときは、選択肢と、それぞれを選んだときに何が起きるかを1枚にして出します。

判断する人に必要なのは資料の量ではなく、選択肢の数です。3つ以内に絞ってあると、その場で決まります。

取りまとめる人が社内にいないとき

ふたば

正直に言うと、私はこの規模の要件定義を仕切った経験がありません。

永瀬

経験のない人が任されるのは珍しくありません。むしろ多数です。問題は経験そのものではなく、専任かどうかのほうです。通常業務と兼任でこの規模を回すと、決める会議の準備が後回しになり、そこから崩れます。

ふたば

外部の人に頼むとしたら、どういう頼み方になりますか。

永瀬

頼む相手の役割を先に決めることです。要件定義書を書いてくれる人を探すと、資料は増えますが、社内の決めごとは止まったままになります。頼むべきは、業務部門と経営から判断を引き出して、期限を切って決めさせる役割のほうです。

見極め方はPMO外注の選び方に、費用の目安はPM代行の費用相場に書きました。

ふたば

すでに開発が始まっている場合でも、間に合いますか。

永瀬

間に合う場合と、そうでない場合があります。ベンダーの報告が「順調です」で止まっているだけなら、ベンダーコントロールのコツで挙げた聞き方の変更で戻せます。関係者が遅れの理由を別々に説明し始めているなら、それは通常の管理ではなく、プロジェクト炎上の立て直しの手順に切り替える段階です。

ふたば

準備の作業だけでも、かなりの量があります。

永瀬

そこは減らせます。現行の業務資料と過去の議事録から、決まっていない論点を抜き出して一覧にする作業や、複数の会議で出た同じ論点を1件にまとめる作業は、いまはAIに寄せられます。手が足りない会社ほど、この部分を仕組みにしてから人を足すほうが効きます。判断そのものは人が出しますが、判断に必要な材料をそろえる時間は短くできます。

ふたば

最初にやることを一つ選ぶとしたら、何ですか。

永瀬

次の要件定義の会議で、決まっていない論点を数えてください。10件を超えていて、それぞれに担当者と期限が付いていないなら、まだ要件定義は始まっていません。

参考データと出典

この記事の数字は、次のデータにもとづいています。調査の対象や集計方法によって数字は変わるため、時点と条件をあわせて確認してください。

データ内容時点・条件
JUAS 企業IT動向調査2025(調査結果サマリ・PDF)QCD悪化に影響を与えているトレンドで「要件定義の難易度向上」が最上位(47.2〜51.0%)。「要件定義の時間不足」は28.8〜35.6%。10年間の推移では全規模で「予定どおり完了」が低下傾向2024年度調査。4500社に配布し981社が回答。悪化要因の設問は工期n=202、予算n=330、品質n=176の複数回答
日経クロステック システム開発プロジェクトの実態調査スケジュール、コスト、満足度の3条件を満たしたプロジェクトは52.8%2018年2月公開の記事。1201人から1745件の回答(調査の実施時期は記事に明記なし)

作り込みが増えたときの見積の伸び方や、例外業務の件数は、会社ごとの条件によって幅があります。この記事では現場で繰り返し見る傾向として書いており、統計にもとづく数字ではありません。

よくある質問

要件定義で発注側は何をすればいいですか

自社にしか決められない論点を、期限までに決めることです。標準に合わせるか作り込むか、初回リリースに入れる業務範囲、例外処理をシステムで扱うか手作業で残すか、既存システムとの連携範囲の四つが中心になります。機能の一覧づくりや資料の作成はベンダーに任せられますが、この四つは持ってきてもらえません。

要件定義をベンダーに任せきりにすると何が起きますか

レビューで指摘しなかった箇所が、合意したものとして扱われます。ベンダーは聞いた内容を書くため、現行業務のうち聞かれなかった部分は資料に載りません。月末だけ動く処理、特定の取引先だけの手順、システムの外でExcelを使って回している部分が抜けやすく、開発の後半で仕様変更として出てきます。

要件定義書はどこまで読めばいいですか

全部を読む必要はありません。発注側が判断するための決定事項の一覧(何を決めたか、誰が決めたか、決めた前提は何か)を別に用意し、本体は非機能要件だけ確認してください。同時利用者数、夜間処理の完了時刻、障害時にどこまで戻せるかの三つは、後から変えると作り直しになります。

要件定義の会議には誰を出席させるべきですか

業務の実務担当、業務を変える判断ができる人、情シスの3種類です。2番目が欠けると論点は出るのに決まらず、同じ議題が数か月後に戻ってきます。決裁できる人が毎回出られない場合は、決める会議だけ分け、選択肢を3つ以内に絞って持ち込んでください。

社内に要件定義を仕切れる人がいない場合はどうすればいいですか

外部に頼む場合は、役割を先に決めてください。要件定義書を書く人を探すと資料は増えますが、社内の決めごとは止まったままになります。頼むべきは、業務部門と経営から判断を引き出し、期限を切って決めさせる役割です。兼任のまま社内で抱えると、決める会議の準備が後回しになり、そこから崩れます。

この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と副業・業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。

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