プロジェクト炎上の立て直し方|最初の2週間でやること、増員が効かない理由
プロジェクトの炎上は、遅れの大きさではなく説明が割れているかで見分けます。立て直しの最初の2週間でやる4つのこと、増員が効かない条件、範囲の削り方、外部PMの見極め方を解説します。
この記事でわかること
- 遅れと炎上の違いは大きさではない。遅れの理由を関係者が別々に説明し始めたら炎上
- 最初にやるのは進捗の再集計ではなく、決まっていない論点を10〜20件に絞って名前と期限を付けること
- 増員が効くのは、教えなくても着手できる独立した作業が残っている場合に限られる
永瀬
PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。
ふたば
事業会社のIT企画。発注した基幹システム刷新が3か月遅れ、立て直しの旗振りを任された。
目次
プロジェクトが炎上したとき、社内で最初に出てくる案はだいたい2つに絞られる。人を増やすか、スケジュールを引き直すか。
どちらも原因が分かったあとにやることで、分からないうちに手を出すと、燃えたまま予算と期間だけが増える。立て直しに入った現場で最初に潰すのは、遅れそのものではない。
ふたば(事業会社のIT企画。発注した基幹システム刷新が3か月遅れ、立て直しの旗振りを任された)
永瀬さん、去年から動いている基幹システムの刷新が、3か月遅れています。先週、私が立て直しの旗振りをやれと言われました。何から手をつければいいのか、正直まったく見えていません。
永瀬(PM専門エージェント)
まず、増員とリスケの相談を上から受けていませんか。
ふたば
受けています。「人を足すか、スケジュールを引き直すか、どっちだ」と。
永瀬
どちらもまだ答えられません。炎上したプロジェクトで最初にやるのは、遅れの取り戻し方を決めることではなく、判断が止まっている場所を数えることです。そこを飛ばして人を足すと、燃えている面積が広がるだけです。
いま起きているのが、手が打てている遅れなのか、炎上なのかで、打つ手が変わります。3か月という数字だけでは、まだどちらとも言えません。
遅れているだけのプロジェクトと、炎上しているプロジェクトの違い
ふたば
3か月遅れているのだから、もう炎上ではないんですか。
永瀬
遅れの大きさでは決まりません。見るのは、遅れの理由を関係者が同じように説明できるかどうかです。
遅れているだけの現場では、誰に聞いても同じ答えが返ってきます。「移行データの不備で2か月止まった」。原因が特定されていて、対策も打たれている。これは管理できている状態です。
炎上している現場では、聞く相手ごとに答えが変わります。情シスは「ベンダーの要員が弱い」と言い、ベンダーは「要件が固まらない」と言い、業務部門は「そもそも聞かれていない」と言う。全員が正直に答えていて、それでも話が合わない。
ふたば
うちは、その状態です。三者三様で。
永瀬
では炎上です。説明が食い違うのは、誰かが嘘をついているからではなく、判断が止まった場所を全員が別々に見ているからです。
数字の上でも、大きなプロジェクトほど遅れます。JUASの調査では、500人月以上のシステム開発で工期が予定どおり完了したのは11.0%、予定より遅延したものが43.7%(2024年度調査)。100人月未満だと予定どおりが31.0%なので、規模が上がるほど落ちる。遅れること自体は珍しくありません。
ふたば
珍しくない、と言われると少し楽になります。
永瀬
楽になった直後に厳しいことを言いますが、珍しくないのは遅れであって、説明が割れている状態は別です。放っておくと、遅れの理由がそのまま社内政治の材料になります。そうなってからの立て直しは、倍の時間がかかります。
立て直しで最初にやるのは、進捗の再集計ではない
ふたば
となると、まず全体の進捗を正確に取り直すべきでしょうか。全部の課題を洗い出して。
永瀬
そこに2週間かけて、集め終わった頃には数字が古くなっている。炎上の現場でよく見る失敗です。
ふたば
数字を取らずに、どう判断するんですか。
永瀬
炎上している時点で、進捗の数字はほぼ壊れています。壊れた数字を丁寧に集め直しても、精度は上がりません。
代わりに数えるのは、決まっていないことです。誰が、いつまでに、何を決めれば次に進むのか。これを一覧にすると、たいてい10件から20件で収まります。数百件ある課題一覧より、こちらのほうが先に効きます。
ふたば
課題一覧はベンダーが管理しているものがあります。300件くらい。
永瀬
その300件を眺めても、止まっている理由は出てきません。課題一覧に載るのは、担当者が「これは課題だ」と認識できたものだけです。止まっているプロジェクトの本当の原因は、誰も自分の担当だと思っていない未決事項として、一覧の外にあります。
ふたば
たとえば、どんなものですか。
永瀬
よく見る形で言うと、旧システムに残っている取引先データを、どこまで移すか。情シスは業務部門が決めることだと思っていて、業務部門は情シスが技術的に判断することだと思っている。3か月誰も決めず、その間、移行チームは全件移行の前提で作り続けていました。あとで半分捨てることになって、作業も2か月ぶんが消えます。
課題一覧には一行も載っていませんでした。担当者が決まっていない論点は、課題として登録されないからです。
ふたば
聞いて回れば、出てきますか。
永瀬
「困っていることはありますか」と聞くと、相手の悪口が返ってきます。聞き方を変えます。「あなたがいま止めている判断は何ですか」ではなく、「次の2週間で、誰かに決めてもらわないと進めない作業はどれですか」と聞く。これなら人ではなく作業の話になるので、正直な答えが出ます。
最初の2週間でやる4つのこと
ふたば
その未決事項を並べたあとは、何をすればいいですか。
永瀬
立て直しに入った最初の2週間でやることは、この4つに絞れます。全部やらないと、どれも効きません。
| やること | 具体的に | 飛ばすとどうなるか |
|---|---|---|
| 未決事項の一覧化と、決める人の指名 | 決まっていない論点を10〜20件に絞り、それぞれに名前と期限を書く | 会議のたびに「持ち帰り」が増え、判断の総量が増えない |
| 現状を見る場所を1か所に決める | 進捗も課題も、どこを見れば最新かを1か所に固定する | 報告資料を作るためだけの作業が現場の時間を食う |
| 悪い情報を出す場を、報告の場と分ける | 経営報告とは別に、リスクだけを扱う短い会議を週1で置く | 悪い情報が経営報告の直前まで出てこない |
| 終了条件を決め直す | 初回リリースで何が動いていれば完了かを、機能単位で書き直す | 全部入りの前提のまま、全部が遅れる |
ふたば
3つめの「悪い情報を出す場を分ける」は、あまり聞いたことがない話です。
永瀬
ここが一番効きます。炎上している現場では、悪い情報を報告した人が責められるので、報告のたびに情報が薄まっていきます。悪意ではなく、報告の場が評価の場を兼ねているせいです。
経営報告の場で「遅れています」と言えば、その場で担当者が詰められる。次からは「一部で調整中です」に変わります。3回繰り返すと、報告書からは何も読み取れなくなります。
ふたば
心当たりがあります。うちの月次報告、もう何も分からないです。
永瀬
だから場を分けます。リスクだけを扱う30分の会議を作って、そこでは対策も犯人探しもしない。事実を出す場と、判断する場と、評価する場を混ぜないことです。分けたその週から、出てくる情報の質が変わります。
ふたば
現状を見る場所を1か所に、というのも、言うほど簡単ではなさそうです。
永瀬
全員に「ここを見てください」と宣言して、報告用の資料を作るのをやめさせるだけです。難しいのは技術ではなく、報告資料をやめる決定を誰がするかのほうです。
集めて整える作業自体は、いまはAIでかなり肩代わりできます。議事録から決定事項と宿題を抜き出す、複数のチームの進捗を1枚にまとめる、報告のたたき台を作る。人が手で表を作り続けている現場は、判断に使える時間をそこで削っています。
人を増やしても、炎上が収まらない理由
ふたば
上から「要員を増やす」と言われています。これは効きますか。
永瀬
効く条件は限られます。まず、増やした人に仕事を説明するのは、いま一番忙しい人です。説明に取られる時間のぶん、短期的には全体が遅くなります。ソフトウェア開発では50年前から知られている話で、『人月の神話』が「遅れているプロジェクトへの要員追加は、さらに遅らせる」と書いています。
ふたば
50年前から分かっていることを、なぜ毎回やるんでしょう。
永瀬
増員は、社内に対して「手を打っている」と示せる、いちばん分かりやすい打ち手だからです。判断を整理しましたと報告しても、経営会議では動いたように見えない。5人増やしましたなら見える。
正直に言うと、発注側の担当者が板挟みを抜けるために増員を選ぶ場面を、何度も見ています。効かないと分かっていても、何もしていないと言われるよりましだと。
ふたば
……否定できないです。
永瀬
増員が効くのは、教えなくてもできる独立した作業が残っているときだけです。テストの実施、移行データの突合、マニュアルの作成。この種の作業が実際に積み上がっているなら、人を入れれば減ります。
逆に、仕様を理解していないと手が出ない作業しか残っていない場合、増員は費用だけが増えます。判断すべきなのは人数ではなく、いま残っている作業が説明なしで着手できるかどうかです。
リスケが通らない会社で、何を切るか
ふたば
スケジュールの引き直しも言われていますが、上は納期を動かしたくないようです。
永瀬
納期を動かさないなら、動くのは範囲か品質のどちらかです。両方動かさないと決めた場合、実際に動くのは品質で、それは半年後に障害として出てきます。決めていないだけで、選んではいます。
ふたば
範囲を削るとして、どこから削るんですか。
永瀬
順番があります。初回リリースで使わない機能、当面は手作業で回せる業務、同時に移行しなくていい範囲。この3つを、業務部門と一緒に線引きします。
- 初回リリースで使わない機能。使用頻度が年数回の帳票や、一部拠点だけの例外処理は、後続リリースに送れることが多い
- 当面は手作業で回せる業務。件数が少ない業務は、システム化を後ろに倒しても現場が回る
- 同時に移行しなくていい範囲。全拠点同時ではなく、拠点ごとや業務ごとに分けると、失敗の影響範囲も小さくなる
ふたば
これは私の判断でできる話ではないですね。
永瀬
できません。範囲を切るのは事業側の判断で、PMがやるのは判断に必要な材料を揃えて、決める場に持っていくところまでです。
だから未決事項の一覧が先に要ります。「削ってください」ではなく、「この機能を後ろに送れば2か月縮みます。送らない場合、初回の稼働は6月になります」という形にする。選択肢と期限を出せば、経営は決められます。決められないのは、聞かれ方が悪いときです。
ふたば
上に持っていくときに、遅れの原因はどう説明すればいいですか。
永瀬
犯人を特定した形で報告しないことです。ベンダーの能力不足という説明にすると、その場では通りますが、次にベンダーが情報を出さなくなります。立て直しの期間中に必要なのは、正確な情報が早く上がってくることのほうです。
事実だけを出します。何がいつ決まらなかったか、その結果どの作業が止まったか。この形なら、ベンダーも反論する必要がありません。
外からPMを入れて立て直すときの見極め
ふたば
社内だけでは手が足りないので、外部からPMを入れる話も出ています。
永瀬
立て直しで外の人を入れる場合、見るところが平時とは違います。技術の深さより、悪い情報を持って役員のところに行ける人かどうかです。
社内の人間は、その報告をすると自分の評価が下がる立場にいます。外から来た人には失うものがないので、そこだけは代われます。逆に、社内の人が言えることを丁寧に整理し直すだけの人なら、入れても現状は変わりません。
ふたば
面談で、どう見分けますか。
永瀬
「入ってから最初の2週間で何をしますか」と聞いてください。「まず現状を把握します」で止まる人は、立て直しの経験がありません。経験がある人は、把握の中身を具体的に答えます。誰に何を聞くか、どの数字は信用しないか、いつまでに何を判断の場に出すか。
ふたば
費用の水準も気になります。
ふたば
立て直しの途中で、次の予防まで考える余裕はあるでしょうか。
永瀬
余裕はありません。ただ、立て直しでやる4つのことは、そのまま平時の進め方になります。未決事項を数える、現状を見る場所を1か所にする、悪い情報の場を分ける、終了条件を先に決める。火が消えたあとにこれを外すから、また燃えるんです。
参考データと出典
この記事の数字は、次のデータにもとづいています。調査の対象や集計方法によって数字は変わるため、時点と条件をあわせて確認してください。
| データ | 内容 | 時点・条件 |
|---|---|---|
| JUAS 企業IT動向調査2025(調査結果サマリ・PDF) | システム開発の工期遵守状況。500人月以上のプロジェクトで「予定どおり完了」11.0%、「予定より遅延」43.7%(n=245)。100人月未満では「予定どおり完了」31.0%、「予定より遅延」16.6%(n=694) | 2024年度調査。10年間の推移では全規模で「予定どおり完了」が低下傾向 |
| 日経クロステック システム開発プロジェクトの実態調査 | スケジュール・コスト・満足度の3条件を満たしたプロジェクトは52.8% | 2018年2月公開の記事。1201人から1745件の回答(調査の実施時期は記事に明記なし) |
| Standish Group「CHAOS Report 2020」 | プロジェクトの約70%が想定どおりに終わっていない | 2020年公表 |
| 『人月の神話』(Frederick P. Brooks, 1975) | 遅れているソフトウェアプロジェクトへの要員追加は、さらに遅らせる | 書籍。ソフトウェア開発を対象とした経験則 |
立て直しに入るPM・PMOの費用感は、PM代行の費用相場で扱っています。ベンダー側の報告が「順調です」しか返ってこない状態から抜ける方法は、ベンダーコントロールのコツのほうに書きました。
よくある質問
炎上したプロジェクトの立て直しは何から始めればいいですか
進捗の再集計ではなく、決まっていない論点の一覧化から始めます。誰が、いつまでに、何を決めれば次に進むのかを10〜20件に絞り、それぞれに名前と期限を付けます。炎上している時点で進捗の数字は壊れているため、集め直しても精度は上がりません。
人を増やせば炎上は収まりますか
教えなくても着手できる独立した作業(テストの実施、移行データの突合、マニュアル作成)が残っている場合に限り効きます。仕様の理解が要る作業しか残っていない場合、説明にかかる時間をいちばん忙しい人が負担するため、短期的にはさらに遅れます。
スケジュールを引き直せない場合はどうすればいいですか
納期を動かさないなら、範囲か品質のどちらかが動きます。両方動かさないと決めた場合は品質が動き、後日の障害として出てきます。初回リリースで使わない機能、手作業で回せる業務、同時に移行しなくていい範囲の順に、事業側と線を引き直してください。
立て直しに外部のPMを入れるべきですか
社内の人間が悪い情報を上げられない状態になっているなら、外部を入れる価値があります。面談では「入ってから最初の2週間で何をしますか」と聞き、把握の中身(誰に何を聞くか、どの数字を信用しないか、いつ判断の場に出すか)を具体的に答えられるかを見てください。
立て直したあと、また炎上させないために何が必要ですか
立て直しでやる4つのこと(未決事項を数える、現状を見る場所を1か所にする、悪い情報を出す場を分ける、終了条件を先に決める)を、火が消えたあとも続けることです。情報を集めて整える作業をAIと仕組みに寄せておくと、平時でも維持できます。
この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と副業・業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。