システム開発の追加費用はどこで決まるか|仕様変更でもめない発注側の進め方

システム開発の追加費用でもめる原因は金額ではなく、当初の範囲を双方が別の資料で覚えていることにあります。追加見積が来たときに照らす四つの資料と、変更を束ねる運用を解説します。

この記事でわかること

  • 追加費用の争点は金額ではなく当初範囲の判定。依頼日と依頼者の記録がないと話し合いにならない
  • 無料で飲んでもらった小さい変更は、終盤に納期の遅れか、まとめての追加見積として返ってくる
  • 変更は止めずに月1〜2回に束ねる。影響範囲の調査と再テストが1回で済み、同じ内容でも費用が下がる

永瀬

PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。

ふたば

物流会社の情シス。開発中の在庫管理システムで、ベンダーから追加見積を出された。

目次
  1. 追加費用は、請求された日ではなく頼んだ日に決まっている
  2. 小さい変更ほど、後になって効いてくる
  3. 追加見積が来たときに突き合わせる4つの資料
  4. 安い見積を選んだ会社ほど、追加費用が出る
  5. 変更を止めるのではなく、束ねる
  6. 予算の枠に、変更用の枠を最初から取る
  7. 参考データと出典
  8. よくある質問

開発の終盤になって、ベンダーから追加見積が出てくる。金額の根拠を社内から問われても、当初の範囲に入っていたのかどうかを、発注側の資料だけでは判定できない。

システム開発の追加費用でもめる原因は、請求の金額そのものではない。何が当初の範囲だったかを、双方が別々の資料で覚えていることにある。

追加費用は、請求された日ではなく頼んだ日に決まっている

ふたば(物流会社の情シス。開発中の在庫管理システムで、ベンダーから追加見積を出された)

永瀬さん、ベンダーさんから追加で400万円の見積が出てきました。うちとしては、当然入っていると思っていた機能なんです。

永瀬(PM専門エージェント)

その主張が通るかどうかは、いま決まる話ではありません。追加費用の勝負は、請求が来た日ではなく、その作業を頼んだ日に終わっています

ふたば

頼んだ日、というと。

永瀬

現場の誰かが「ここ、こうしてもらえますか」と言った日です。そのやり取りが記録に残っていて、当初の要件のどこに当たるかを示せるなら、話し合いになります。会議の口頭だけで、議事録にも一行も残っていないなら、材料がありません。

ふたば

支払う義務があるかどうかは、契約書の話ですよね。

永瀬

そこは契約書と経緯次第で、法律の専門家の領域です。私が話せるのは、そうなる前の運用のほうになります。

実務で見ていると、揉める案件のほとんどは金額の大小ではなく、判定できる資料がないことで長引きます。相手も、こちらが納得しない請求を出したいわけではない。双方が別の記憶を持っている状態が、いちばん高くつきます

小さい変更ほど、後になって効いてくる

ふたば

大きな変更は見積を出してもらっています。細かい直しは、その場でお願いしています。

永瀬

そこが積み上がります。ベンダーは、小さい変更のたびに見積を出すと関係が悪くなると考えるので、たいていは飲みます。飲んだ分は請求されませんが、消えるわけでもありません。

ふたば

どこに行くのですか。

永瀬

見積に含まれていた余裕の部分です。テストの期間や、想定外の対応に備えて積んでいる工数が先に削られます。それが尽きた時点で、二つのどちらかが起こります。「間に合いません」と言われるか、まとめて追加見積が出てくるか。

ふたば

どちらも終盤に来ますね。

永瀬

来ます。無料で飲んでもらった小さい変更は、終盤に納期か金額のどちらかで返ってきます。だから、金額が発生しない変更でも記録は残してください。「これは今回は費用なしで対応」と一行書いておく。相手にとっても、後から説明できる材料になります。

ふたば

記録は、どの粒度で残せばいいのでしょう。

永瀬

変更の内容、依頼した日、依頼した人、費用が発生するかどうか、この四つで足ります。表計算ソフト1枚で構いません。ベンダー側の課題管理表とは別に、発注側の手元に置いてください。

追加見積が来たときに突き合わせる4つの資料

ふたば

今回の400万円は、どう検証すればいいですか。

永瀬

順番に照らします。

見る資料確認すること見つかること
契約書と当初見積の前提条件対象範囲、想定件数、対象拠点、作業の除外項目「別途協議」と書かれた項目が、そのまま未協議で残っている
要件定義書と決定事項の記録その機能がどう書かれていたか、書かれていなかったか記載はあるが、条件付き(例外を除く、等)だった
依頼のやり取りいつ、誰が、どう頼んだか現場から直接ベンダーへ依頼が飛んでいた
追加見積の内訳作業の種類ごとの工数と単価、影響範囲の調査分が含まれているか同じ変更に対する再テストが二重に積まれている

ふたば

「別途協議」は、たしかに何か所かありました。

永瀬

見積の除外項目と「別途協議」は、追加費用の入り口になりやすい箇所です。契約の時点で気付いていても、そこを詰めると金額が上がるので、双方が触れずに進むことがあります。

ふたば

内訳の見方が難しそうです。

永瀬

全部は分からなくて構いません。一つだけ聞いてください。「この変更で、影響範囲の調査にどれだけかかっていますか」。小さな変更でも、影響範囲の調査と再テストで工数の大半が消えることがあります。そこが金額の中心なら、作業の内容としては妥当です。逆に、新規開発と同じ単価で機能追加分だけが積まれているなら、既存の設計を作り直しているということなので、理由を聞く必要があります。

ふたば

準委任契約なら、追加費用という考え方にはならないのですか。

永瀬

名前が変わるだけで、増える理由は同じです。請負なら追加見積、準委任なら期間の延長という形で出てきます。

ふたば

見え方が違うだけ、ということですか。

永瀬

準委任のほうが気付きにくい面はあります。請負なら追加見積という書類が出るので、社内で議論になる。準委任は月額が続くだけなので、増えていることが数字に現れません。

見るのは金額ではなく月数です。当初計画していた終了時期と、いまの見通しの差を毎月確認してください。1か月延びるたびに、体制の人数分の費用が増えています。

安い見積を選んだ会社ほど、追加費用が出る

ふたば

発注のときは、3社から見積を取って、いちばん安いところにしました。

永瀬

よくある選び方です。ただ、金額の差は会社の効率の差ではなく、範囲の差であることが多い。安い見積は、安く作るのではなく、少なく見積もっています

ふたば

同じ要件を渡したつもりでした。

永瀬

渡した要件が同じでも、読み方は分かれます。データ移行をどこまでやるか、既存システムとの連携を何本作るか、テストは誰がどこまでやるか。この三つの読み方で、見積は倍近く変わります。

比較するときは金額の合計ではなく、この三つを各社にどう見積もったかを聞いてください。安い会社が、移行は発注側で実施する前提で出していることがあります。前提が違えば、比較になりません。

ふたば

そこは確認していませんでした。

永瀬

あとから発注側で移行作業を抱えるか、追加で頼むかになります。追加で頼むと、当初の差額を超えることもあります。見積の比べ方はPM代行の費用相場にも書きましたが、判断の基準は同じで、金額ではなく前提のほうを見ます。

変更を止めるのではなく、束ねる

ふたば

変更そのものを、もっと止めるべきでしょうか。

永瀬

止まりません。動くものを見て初めて分かることがあるので、変更が出ること自体は正常です。問題は、出るたびに個別に処理していることのほうです。

ふたば

束ねる、というのは。

永瀬

変更の判断を月に1回か2回に固定します。出てきた変更はいったん一覧に溜めて、その日にまとめて判断する。入れるもの、次のリリースに回すもの、やらないものに分けます。

ふたば

束ねると、何が変わりますか。

永瀬

単価が下がります。変更を1件ずつ入れると、そのたびに影響範囲の調査と再テストが発生します。まとめて入れれば、その作業が1回で済む。同じ内容でも、費用が変わります。

ふたば

現場からは、待たされると言われそうです。

永瀬

言われます。ただ、待たせない代わりに払っているのが、いまの追加費用です。

それと、一覧に溜めると、変更の3割前後は実際にはやらないまま消えます。急ぎだと言われた変更が、翌月には不要になっている。個別に処理していると、この分まで作ってしまいます。

ふたば

急ぎの変更が出たときは、どうするのですか。

永瀬

例外の扱いを先に決めておきます。業務が止まる不具合と、法令や取引先の都合で期日が動かせないものだけは、その場で判断する。それ以外は次の判断日に回す。この二つ以外を例外にすると、例外が通常になります。

ふたば

一覧は、誰が持つのですか。

永瀬

発注側です。ベンダーの管理表に載せると、ベンダーが対応できる変更が中心になります。この線引きはベンダーコントロールのコツに書いたとおりで、変更の窓口を1か所にすることと合わせて効きます。

予算の枠に、変更用の枠を最初から取る

ふたば

社内には、追加費用が出た理由をどう説明すればいいでしょうか。

永瀬

説明が難しくなるのは、当初の予算に変更用の枠がないときです。1円も動かない前提で承認を取っていると、追加はすべて計画の失敗として扱われます。

ふたば

最初から余裕を持たせておく、ということですか。

永瀬

開発の予算とは別に、変更のための枠を確保しておきます。枠として承認を取っておけば、変更が出たときの説明が「計画外の支出」ではなく「想定していた範囲での使用」になります。

割合の目安は、要件の固まり具合とプロジェクトの規模で変わるので、一律には言えません。決め方としては、要件定義の終了時点で残っている未決事項の件数を見て、社内で合意するのが実務的です。

ふたば

未決事項が多いほど、枠を厚くするということですね。

永瀬

そうです。逆に言うと、枠を薄くしたいなら、要件定義の段階で決める件数を増やすしかありません。何を決めておくべきかは要件定義で発注側がやることに書きました。

ふたば

すでに進んでいるプロジェクトでは、どこから手を付ければいいですか。

永瀬

変更の一覧を作ることからです。過去の議事録とメールから、これまでに依頼した変更を拾い出して、費用が発生したもの、無料で対応してもらったもの、まだ返事がないものに分ける。ここまで作れば、次の追加見積が来たときに、こちらの資料で照らせます。

この拾い出しは手間がかかる作業ですが、議事録やメールから変更依頼らしき箇所を抜き出して一覧に整える部分は、いまはAIに寄せられます。判断は人が出すとして、材料をそろえる時間は短くできます。

ふたば

それが終わったら、次は。

永瀬

今月分から、判断の日を決めてください。変更を溜める場所と、決める日と、決める人。この三つが揃った時点で、追加費用の出方は変わります。関係者が遅れの理由を別々に説明し始めているなら、費用の話より先にプロジェクト炎上の立て直しの手順です。順番を間違えると、金額だけ確定して工程が動きません。

参考データと出典

この記事の数字は、次のデータにもとづいています。調査の対象や集計方法によって数字は変わるため、時点と条件をあわせて確認してください。

データ内容時点・条件
JUAS 企業IT動向調査2025(調査結果サマリ・PDF)IT予算の増加理由の上位に「円安、人件費高騰、ベンダー提供価格の値上げなどによる影響」が41.8%で入る。QCD悪化に影響を与えているトレンドでは「要件定義の難易度向上」が最上位(47.2〜51.0%)2024年度調査。4500社に配布し981社が回答。予算の増加理由は2025年度予測(n=483)の複数回答、悪化要因は工期n=202、予算n=330、品質n=176の複数回答
日経クロステック システム開発プロジェクトの実態調査スケジュール、コスト、満足度の3条件を満たしたプロジェクトは52.8%。コストの超過は失敗の条件に含まれる2018年2月公開の記事。1201人から1745件の回答(調査の実施時期は記事に明記なし)

見積の差が範囲の差になる度合いや、一覧に溜めた変更のうち実施されない割合は、会社ごとの条件によって幅があります。この記事では現場で繰り返し見る傾向として書いており、統計にもとづく数字ではありません。追加費用の支払い義務については、契約書の内容と経緯によって判断が変わるため、この記事では扱っていません。

よくある質問

システム開発の追加費用はなぜ発生するのですか

当初の範囲に入っていなかった作業が発生したときに出ます。もめる原因は金額そのものではなく、何が当初の範囲だったかを双方が別々の資料で覚えていることにあります。変更を依頼した日付と依頼者、費用の有無を発注側の手元に記録しておくと、追加見積が来たときに照らし合わせられます。

ベンダーから追加見積が来たとき、何を確認すればいいですか

契約書と当初見積の前提条件、要件定義書と決定事項の記録、依頼のやり取り、追加見積の内訳の四つを順に照らします。内訳では「この変更で影響範囲の調査にどれだけかかっているか」を聞いてください。小さな変更でも、調査と再テストで工数の大半が消えることがあります。

費用が発生しない小さな変更も記録すべきですか

記録してください。小さい変更をベンダーが飲むと、見積に含まれていたテスト期間や予備の工数が先に削られます。それが尽きた時点で、納期の遅れか、まとめての追加見積として出てきます。費用が発生しない対応も一行残しておくと、後から双方が説明できます。

相見積でいちばん安い会社を選べば費用は抑えられますか

金額の差は、効率の差ではなく範囲の差であることが多いです。データ移行をどこまでやるか、既存システムとの連携を何本作るか、テストを誰がどこまでやるかの三つで見積は大きく変わります。合計金額ではなく、この三つを各社がどう見積もったかを比べてください。

仕様変更を減らすにはどうすればいいですか

変更が出ること自体は正常なので、止めるのではなく束ねます。判断を月に1回か2回に固定し、出た変更は一覧に溜めて、入れるもの、次のリリースに回すもの、やらないものに分けます。まとめて入れると影響範囲の調査と再テストが1回で済むため、同じ内容でも費用が下がります。

この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と副業・業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。

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