ベンダーコントロールのコツ|「順調です」が続く現場で発注側がやること
ベンダーコントロールで先に直すのは、相手の姿勢ではなく報告の形と決める場所です。「順調です」を抜ける3つの質問、進捗率が止まる理由、発注側が手元に置く4つ、契約形態の選び方を解説します。
この記事でわかること
- 「順調です」で通る質問しかしていないと報告は薄くなる。聞く内容を3つに固定すると翌週から変わる
- 進捗率が同じ数字で止まるのは着手で数えているから。成果物ベースに直すと数字は一度落ちる
- 課題一覧の管理権・決定の記録・優先順位・変更の窓口の4つは、発注側の手元に置く
永瀬
PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。
ふたば
中堅メーカーの情シス。基幹システムの刷新をSIerに発注し、初めてベンダー管理を任された。
目次
週次の進捗会議で、ベンダーの報告は毎回「順調です」で終わる。3か月後に「実は間に合いません」と言われる。多くの現場で起きているのに、原因はベンダーの誠実さの問題として片付けられている。
報告が薄いのは、発注側が受け取れる形でしか報告できないからでもある。ベンダーコントロールで先に直すのは、相手の姿勢ではなく、報告の形と、決める場所のほうになる。
ふたば(中堅メーカーの情シス。基幹システムの刷新をSIerに発注し、初めてベンダー管理を任された)
永瀬さん、開発をSIerさんにお願いしているのですが、週次で聞いても「順調です」しか返ってこなくて。かといって疑う材料もなく、そのまま3か月経ちました。
永瀬(PM専門エージェント)
その状態は、ベンダー側が隠しているというより、「順調です」で通る質問しかされていないことのほうが多いです。報告の形を変えると、翌週から返ってくる中身が変わります。
ふたば
質問が悪い、ということですか。
永瀬
悪いというより、答えの幅が広すぎます。「進捗はどうですか」と聞けば、答えは「順調です」でも嘘にならない。ベンダーは嘘をつくのではなく、報告できる形式でしか報告しません。
「順調です」しか返ってこないのは、聞き方の問題
ふたば
具体的には、どう聞けばいいんでしょう。
永瀬
三つだけ固定します。今週終わるはずだった作業のうち、終わっていないものはどれか。来週着手できない作業と、その理由は何か。こちらが決めていないせいで止まっているものはどれか。
三つめが効きます。ベンダーは、発注側の不備を自分から指摘しにくい立場にいます。契約している相手に「あなたが決めていないから止まっています」とは言いづらい。こちらから聞けば、答えられます。
ふたば
たしかに、そんな聞き方はしていませんでした。
永瀬
面談していると、この三つめで場の空気が変わる現場を何度も見ます。ベンダーの担当者が資料を閉じて話し始める。ずっと言いたかったからです。
それと、報告の形式は文章ではなく箇条書きに固定してください。文章で書かせると、書ける人ほど問題が滑らかに埋め込まれます。「一部調整に時間を要しておりますが、リカバリ可能な範囲と認識しております」。これは読めば何も言っていません。
ふたば
うちの報告書、その文体です。
永瀬
発注側が読み流している限り、その文体は続きます。読んでいる人がいると分かれば、書き方は変わります。
進捗率90%が2か月続く現場で起きていること
ふたば
進捗率の数字はもらっているんです。ただ、先月も90%で、今月も90%で。
永瀬
完了ではなく着手で測っているときに起きる形です。作業に手をつけた時点で進捗が積み上がる作り方をしていると、残りの10%に、テストも修正も結合も全部入ります。
ふたば
数え方を変えれば、正確になりますか。
永瀬
成果物ベースに変えてください。「この画面は、テストまで終わって受け入れ待ち」「この機能は結合待ち」というように、状態で数える。ただし、変えた週に数字が落ちます。90%が60%になる。
ふたば
落ちたら、社内が騒ぎます。
永瀬
そこが分かれ目です。落ちた数字を責めると、二度と正確な数字は出てきません。数え方を変えたから落ちたのであって、状況が悪化したわけではない。これは変更した週に、上に対して先に説明しておく話です。
実際、ここでベンダーを詰めてしまって、以降の報告が元の文体に戻る現場を何度も見ています。正確な報告が出る条件は、正確に報告しても損をしないことだけです。
ふたば
数え方の変更は、途中からでも頼めるものですか。
永瀬
頼めます。契約の変更も要りません。ただ、こちらが毎週その数字を見て、質問を返すことが条件です。見ない相手のために形式を変える会社はありません。
発注側が手元に持っておく4つのもの
ふたば
ベンダーに任せてよいものと、こちらで持つべきものの線引きが分かりません。
永瀬
作る作業は任せて、判断に関わるものは手元に置きます。具体的には、この4つです。
| 手元に置くもの | 理由 | ベンダー側に預けたときに起きること |
|---|---|---|
| 課題一覧の管理権 | 課題として登録するかどうかを、発注側が決められる状態にする | ベンダー内で解決できる課題だけが載り、発注側の未決事項が一覧から消える |
| 決定事項の記録 | 誰がいつ何を決めたかを、発注側の管理下に残す | 「言った・言わない」が起きたとき、記録の解釈権が相手側にある |
| 要件の優先順位 | 削るとき、どこから削るかを事業側の判断で決める | 技術的に作りやすい順に残り、業務上いちばん要るものが後ろに回る |
| 変更の受け付け窓口 | 現場から直接ベンダーへ依頼が飛ぶ経路を止める | 見積外の作業が積み上がり、後から追加費用として戻ってくる |
ふたば
課題一覧をこちらが持つ、というのは考えたことがありませんでした。ベンダーさんが管理してくれているので。
永瀬
便利なので任せたくなります。ただ、課題一覧は「何を問題として扱うか」を決める場所です。管理している側は、自分たちで解決できるものを課題として書き、発注側が決めていない論点は「確認中」の一行で済ませます。悪意ではなく、自分の管理表なので当然そうなります。
結果として、止まっている本当の理由が一覧から消えます。プロジェクトが止まる原因の多くは、ベンダー側の作業ではなく、発注側で決まっていない論点のほうにあります。
ふたば
決定事項の記録は、議事録があれば足りますか。
永瀬
ベンダーが書いた議事録を、こちらが読まずに承認しているなら、記録としては弱いです。書いた側の解釈が残ります。
揉めたときに効くのは、決まったことと、決まらなかったことの両方が書いてあるものです。たいていの議事録には決定しか載りません。「この件は持ち越し。決めるのは業務部門、期限は今月末」まで書いてあると、3か月後に誰も逃げられなくなります。
ふたば
決まらなかったことを書くのは、少し気まずいです。
永瀬
気まずいのは最初の2回だけです。書かれる前提になると、会議の中で決着させようとする力が働きます。議事録に未決事項の欄を作ると、会議で決まる件数が増えます。書式の問題に見えて、判断の量が変わるところです。
ふたば
4つめの窓口の話は、耳が痛いです。現場が直接お願いしている案件が、いくつもあります。
永瀬
そこは費用に跳ね返ります。あとで「これは見積外です」と言われたときに、こちらに反論材料がない。窓口を1か所にするのは、ベンダーのためではなく、発注側の予算を守るためです。
準委任と請負で、コントロールの意味が変わる
ふたば
契約の形でも、やり方は変わりますか。
永瀬
変わります。請負は成果物と金額が先に決まっているので、ベンダーは決まった成果物を作り切る方向に動きます。仕様変更を出すたびに、見積と工期の調整が入る。細かく指示するほど、契約の外側の話が増えます。
ふたば
準委任なら、指示しやすいということですか。
永瀬
準委任は作業への対価なので、進め方を一緒に決めやすい形です。ただし、成果物の完成責任は相手にありません。何をどこまでやるかを発注側が示さないと、時間だけが過ぎます。
| 契約 | 発注側がやること | よく起きる失敗 |
|---|---|---|
| 請負 | 要件と受け入れ条件を先に固める。変更は都度、見積と工期をセットで判断する | 要件が固まらないまま発注し、変更のたびに追加費用と遅延が積み上がる |
| 準委任 | 優先順位と進め方を示し、毎週の作業内容を確認する | 「お任せします」で始めて、半年後に何が終わったのか誰も説明できない |
永瀬
どちらが良いかではなく、要件が固まっているかで選びます。固まっていないものを請負で出すと、後半で必ずもめます。
ベンダーの見積が高く出るのは、発注側の未決事項が多いときです。決まっていないものは、相手にとってリスクなので、金額に載せて吸収するしかない。要件を詰めてから出し直すと、同じ会社から2割下がった見積が出てくることがあります。値引き交渉より効きます。
「丸投げ」と言われる会社に足りていないもの
ふたば
うちは丸投げになっている自覚があります。ただ、社内に技術が分かる人がいないので、任せるしかなくて。
永瀬
丸投げの原因を技術力の不足だと考えている会社が多いのですが、実際に足りていないのは、決める体制のほうです。
ふたば
技術が分からなくても、コントロールできるものですか。
永瀬
できます。ベンダーコントロールという言葉のせいで、ベンダーを管理する仕事に見えますが、実務の大半は社内調整です。業務部門から要件を引き出す、優先順位を経営に決めてもらう、現場の運用変更を通す。この8割は、技術ではなく社内の話です。
ふたば
言われてみると、止まっているものは全部そちらです。
永瀬
そうなります。技術の判断が必要な場面は残りますが、そこは第三者に見てもらう方法もあります。困るのは、社内で誰も決められない状態のほうです。ベンダーを変えても直りません。
JUASの調査でも、上流工程を中心に内製化を進めたいと考えながら、現行業務への理解不足から踏み切れず、ベンダーに依存し続けてナレッジが蓄積しない状況が指摘されています。技術の話ではなく、自社の業務を説明できる人が社内にいるかどうかの話です。
ふたば
業務を説明できる人、というのは情シスではなく業務部門ですよね。
永瀬
両方要ります。業務部門は現場の手順を知っていますが、例外処理や過去の経緯まで説明できるとは限りません。情シスは既存システムの制約を知っています。この二つが揃ってはじめて、ベンダーは正しい前提で設計できます。片方だけを出席させた要件定義は、後半で必ず戻ります。
社内にベンダーを見られる人がいないとき
ふたば
現実的には、私ひとりでこの規模を見るのは無理があります。
永瀬
無理です。専任でも足りない規模を、兼任で見ている会社が多い。そこは人を入れる判断をしてください。ただし、入れる人の役割を先に決めることです。
ふたば
役割、というと。
ふたば
すでに遅れが出ている場合も、同じ考え方でいいですか。
永瀬
遅れの理由を関係者が別々に説明し始めていたら、通常の管理ではなく立て直しの手順に切り替えます。その順番はプロジェクト炎上の立て直し方に書きました。
それと、報告を集めて整える作業自体は、いまはAIに寄せられる範囲が広がっています。議事録から決定事項と宿題を抜き出す、複数ベンダーの報告を1枚に揃える、前週との差分を出す。人を増やす前に、この部分を仕組みにすると、少ない人数でも報告の質を落とさずに回せます。
ふたば
最初にやることを一つだけ選ぶとしたら、何ですか。
永瀬
来週の進捗会議で、三つめの質問をしてください。「こちらが決めていないせいで、止まっているものはどれですか」。答えが出てきたら、そこからが本当の状況です。何も出てこなければ、聞き方をもう一段具体的にします。
参考データと出典
この記事の数字は、次のデータにもとづいています。調査の対象や集計方法によって数字は変わるため、時点と条件をあわせて確認してください。
| データ | 内容 | 時点・条件 |
|---|---|---|
| JUAS 企業IT動向調査2025(調査結果サマリ・PDF) | システム開発の工期遵守状況。500人月以上で「予定どおり完了」11.0%、「予定より遅延」43.7%(n=245)。上流工程の内製化を進めたい一方、現行業務への理解不足から踏み切れずベンダー依存が続く状況を指摘 | 2024年度調査。10年間の推移では全規模で「予定どおり完了」が低下傾向 |
| 日経クロステック システム開発プロジェクトの実態調査 | スケジュール・コスト・満足度の3条件を満たしたプロジェクトは52.8% | 2018年2月公開の記事。1201人から1745件の回答(調査の実施時期は記事に明記なし) |
見積が未決事項の数で変わることや、契約後の追加費用の扱いは、会社ごとの条件によって幅があります。この記事では具体的な割合を数字として示していません。
よくある質問
ベンダーが「順調です」としか報告しないときはどうすればいいですか
質問を三つに固定してください。今週終わるはずだった作業のうち終わっていないものはどれか、来週着手できない作業と理由は何か、発注側が決めていないせいで止まっているものはどれか。三つめは、ベンダーからは切り出しにくい論点のため、発注側から聞く必要があります。
進捗率が何週間も同じ数字で止まっているのはなぜですか
完了ではなく着手で進捗を数えているときに起きます。成果物ごとの状態(結合待ち、テスト済み、受け入れ待ち)で数え直すと実態に近づきますが、変更した週は数字が下がります。下がった数字を責めると正確な報告は出てこなくなるため、数え方を変えることを社内へ先に説明してください。
課題管理表はベンダーに任せてよいですか
管理は任せても、何を課題として登録するかを決める権限は発注側に置いてください。ベンダーが所有すると、自社で解決できる課題が中心に載り、発注側の未決事項が一覧から消えます。プロジェクトが止まる原因の多くは後者にあります。
準委任と請負のどちらで発注すべきですか
要件と受け入れ条件が固まっているなら請負、進めながら決める部分が残るなら準委任です。固まっていない要件を請負で発注すると、変更のたびに追加費用と工期の調整が発生します。準委任の場合は、優先順位と毎週の作業内容を発注側が示す必要があります。
社内に技術が分かる人がいなくてもベンダーコントロールはできますか
できます。実務の大半は、業務部門からの要件の引き出しと、経営への優先順位の確認という社内調整です。技術判断が必要な場面は第三者に確認する方法があります。困るのは技術力の不足ではなく、社内で決められる人がいない状態のほうです。
この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と副業・業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。