業務改善プロジェクトの進め方|現場が動かない理由と、動かす順番
業務改善プロジェクトの進め方でつまずくのは、現場が動かない段階です。止めていい作業の指定、目標の置き方、最初に試す部署の選び方、定着のさせ方を解説します。
この記事でわかること
- 本部が「これはやめていい」と名指しで言わない限り、現場では新旧の両方が残り続ける
- 削減時間を対外的な主目標にすると、人員削減の材料と読まれて実態のデータが出てこなくなる
- 最初に試すのは困っている部署ではなく、余力があって上長が前向きな協力的な部署にする
永瀬
PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。
ふたば
小売チェーンの本部スタッフ。店舗の業務手順を見直すプロジェクトを任され、店舗側の協力が得られずにいる。
目次
業務改善プロジェクトで、決まったはずの新しい手順が現場で使われない。説明会は開いた。資料も配った。それでも、前のやり方が残り続ける。
現場が動かない理由を「理解が足りない」「抵抗している」と読むと、打ち手は説明の追加になる。ところが、動かない原因の多くは反対でも理解不足でもなく、業務改善プロジェクトの進め方のほうにある。
反対されているのではなく、順番が下なだけ
ふたば(小売チェーンの本部スタッフ。店舗の業務手順を見直すプロジェクトを任され、店舗側の協力が得られずにいる)
永瀬さん、店舗に新しい手順を出したのですが、ほとんど使われていません。反対意見が出たわけでもないんです。
永瀬(PM専門エージェント)
反対されていないなら、たいていは優先順位の話です。現場が動かないのは、やりたくないからではなく、それをやると今日の仕事が終わらないからです。
ふたば
5分あればできる作業なんですが。
永瀬
その5分を、いつの5分から出すかが決まっていません。現場の1日は、すでに埋まっています。新しい手順を足すなら、何かを止めるか、時間を空けるかのどちらかが要ります。
ふたば
何を止めるかは、店舗で判断してもらうつもりでした。
永瀬
そこが止まります。現場は、上から止めていいと言われていない作業を、自分の判断では止められません。本部が「これはやめていい」と名指しで言わない限り、現場では両方が残ります。
ふたば
両方やることになるから、結局、前のやり方に戻ると。
永瀬
そうです。新しいほうが後から来た仕事なので、忙しい日には落ちます。動かない現場を見て「意識が低い」と言う本部は多いのですが、順番の問題であることのほうが多いです。
ふたば
現場からは「うちは事情が違う」と言われます。これは抵抗ですよね。
永瀬
半分は実務の指摘です。本部が知らない手順が本当にあることは多い。ただ、全部を聞いて回ると進まないので、扱いを分けてください。
ふたば
どう分けるのですか。
永瀬
「その手順を変えると、何が困りますか」と聞いて、答えが具体的な業務の話なら実務の指摘です。答えが「慣れているから」「前にやって失敗したから」なら、優先順位と経験の話になります。前者は設計に反映する。後者は、止めていい作業の指定と、うまくいった事例で対応します。
ふたば
同じ「できない」でも、中身が違うということですね。
永瀬
混ぜて扱うと、どちらにも効きません。実務の指摘を精神論で返すと、次から本当のことを言ってもらえなくなります。
説明会を増やしても、動く量は変わらない
ふたば
説明会をもう一度やろうと考えていました。
永瀬
説明の回数と、実際に手順が変わる量は、あまり連動しません。理解はしているのに動かない、という状態が起きているからです。
ふたば
では、何をすれば動くのでしょう。
永瀬
動くのは、その人の評価と業務量が変わったときです。具体的には三つあります。
- 上司が、止めていい作業を名指しで指定する
- 新しい手順でやったかどうかが、日々の記録に残る形になっている
- できていない場合に、本部ではなく直属の上司から確認が入る
永瀬
この三つのうち、二つ以上が欠けていると、説明を何回やっても戻ります。
それと、説明会は本部の安心のためにやってしまいがちです。やった記録は残りますが、現場の1日は変わりません。
ふたば
耳が痛いです。回数は稼いでいました。
永瀬
多くの会社がそうです。説明が足りていないと考えるほうが、業務量に手を付けるより簡単なので。
拾った要望に返事をしないと、次から情報が出てこない
ふたば
現場ヒアリングはやりました。要望もたくさん集まっています。
永瀬
集めたあと、返事はしましたか。
ふたば
一部は対応しましたが、できないものは、そのままになっています。
永瀬
そこが次に効きます。返事のない要望を一度でも出した現場は、次のヒアリングで本当のことを言いません。答えても何も起きないと学習するので、当たり障りのないことしか出てこなくなります。
ふたば
できないものにも、返すのですか。
永瀬
返します。やる、やらない、保留の三つに分けて、理由を一行付けるだけでいい。とくに「やらない」は必ず伝えてください。伝えないと、現場では「検討中」として残り続けます。
ふたば
全部に返すとなると、量が多いです。
永瀬
一覧にして、まとめて返して構いません。個別に返信する必要はなく、朝礼で読み上げてもいい。大事なのは、出した側が自分の要望の行方を確認できることです。
保留にするものは、いつ判断するかの日付を入れてください。日付のない保留は、現場からは「やらない」と同じに見えます。
「削減時間」を目標に置くと、協力が止まる
ふたば
プロジェクトの目標は、年間の作業時間の削減で置いています。
永瀬
その置き方は、現場に別の意味で伝わります。作業時間が減ると、人が減るのではないか、と読まれる。
ふたば
そこまでは考えていませんでした。
永瀬
削減時間を主目標にしたプロジェクトは、現場から実態のデータが出てこなくなります。正直に答えるほど自分たちの人数が減る材料になるので、当然そうなります。
ふたば
数字を追わない、ということですか。
永瀬
追い方を変えます。削減した時間を何に使うかを、先に決めて公表してください。接客に回す、残業を減らす、繁忙期の応援を減らす。使い道が示されていれば、協力する理由ができます。
ふたば
使い道は、本部で決めていいものでしょうか。
永瀬
現場の上長と決めてください。本部だけで決めた使い道は、現場では信用されません。それと、削減時間は途中経過の指標としては使えます。対外的な目標に置くかどうかだけが分かれ目です。
最初に試す部署の選び方を間違えると、横展開が止まる
ふたば
いちばん困っている店舗から始めるつもりでした。そこがいちばん効果が出ると思って。
永瀬
逆にしてください。最初に試すのは、いちばん困っている部署ではなく、協力してくれる部署です。
ふたば
効果が小さくなりませんか。
永瀬
最初の1か所でほしいのは効果ではなく、動く事例です。困っている部署は、たいてい人が足りていないので、新しいことを試す余力がありません。そこで失敗すると、「あの手順は現場では無理」という評価が全体に広がります。
ふたば
順番が逆になるわけですね。
永瀬
協力的な部署でうまく回れば、その人たちが説明してくれます。本部が説明するより、同じ立場の人が説明するほうが通ります。
ただし、選んだ部署が特殊すぎると使えません。人員に余裕がある、業務量が平均的、上長が前向き。この三つで選ぶと、次に横展開しやすくなります。
ふたば
横展開のときは、そのまま同じ手順を配ればいいですか。
永瀬
配ると戻ります。試した部署で出た例外を、必ず先に整理してください。例外の扱いを決めずに広げると、受け取った側が自分で判断することになり、部署ごとに別のやり方が生まれます。
元に戻る道を残したまま、定着はしない
ふたば
新しい手順を出したあとも、前の帳票が残っています。
永瀬
それが残っている限り、戻ります。新しいやり方に切り替えるときは、古いほうを使えなくする作業がセットです。帳票を回収する、入力先を閉じる、共有フォルダから外す。
ふたば
いきなり閉じると、混乱しませんか。
永瀬
期限を決めて予告してください。「来月末で、この帳票は受け付けません」。予告なしに閉じると反発が出ますが、日付が決まっていれば、その日までに移ります。
並行運用の期間を決めずに始めた切り替えは、たいてい並行のまま終わります。
ふたば
いつまで並行するかは、決めていませんでした。
永瀬
そこだけでも先に決めてください。並行期間が長いほど、現場の負担は二重のまま続きます。負担が重い状態が続くと、新しいほうが悪者になります。
ふたば
現場から「前のやり方に戻したい」と言われたら、どうすればいいですか。
永瀬
理由を1件ずつ聞いて、手順の欠陥なら直します。慣れの問題なら、期間を区切って続けてもらう。ここで1か所だけ特別に戻すと、その日のうちに他の部署へ伝わります。
ふたば
例外は認めない、ということですか。
永瀬
認めるなら、全部署に同じ条件で認めます。1か所だけの特別扱いは、手順そのものの信用をなくします。戻す判断をするなら、次の切り替え日をセットで決めてください。
業務改善プロジェクトの進み具合を、何で測るか
ふたば
進捗を聞かれても、説明会の回数くらいしか答えられません。
永瀬
成果の測り方が決まっていないプロジェクトは珍しくありません。IPAがDXに取り組む企業に聞いた調査でも、成果がわからないと答えた理由として「成果目標を定めていない」「評価はこれから」が上位に挙がっています。業務改善でも同じ形になりがちです。
ふたば
何を測ればいいのでしょう。
永瀬
三つでいいです。新しい手順で処理された件数の割合、古い手順が残っている場所の数、現場から出た例外のうち未処理の件数。どれも週次で取れます。
ふたば
削減時間は測らないのですか。
永瀬
測っていいのですが、それだけだと、動いていない現場が見えません。使われている割合が上がっていないのに時間だけ減っていたら、報告の数字が実態と離れています。
集計の手間は仕組みで減らせます。日報や記録から使用状況を拾って一覧にする、例外の報告を1件ずつ分類する。この部分はいまはAIに寄せられます。人が使う時間は、動いていない部署に話を聞きにいくほうに向けてください。
ふたば
全社に広げる段になると、部署をまたぐ調整が増えそうです。
永瀬
そこは進め方が変わります。指示権限のない立場で他部署を動かす手順は部門横断プロジェクトの進め方に書きました。すでに関係者が別々の説明を始めているなら、プロジェクト炎上の立て直しのほうが先です。
ふたば
明日から一つやるとしたら、何がいいですか。
永瀬
現場の上長に、止めていい作業を一つ挙げてもらってください。それが出てこないうちは、新しい手順は足し算のままです。
参考データと出典
この記事の数字は、次のデータにもとづいています。調査の対象や集計方法によって数字は変わるため、時点と条件をあわせて確認してください。
| データ | 内容 | 時点・条件 |
|---|---|---|
| IPA DX動向2025 | 成果が「わからない」と答えた企業の理由は「成果目標を定めていない」「成果の評価はこれから進める予定」が多い(図表1-10) | 調査期間は2025年2月上旬から3月下旬。DXに取り組む日本企業のうち、成果を「わからない」と回答した企業が対象。業務改善プロジェクト全般を対象にした調査ではない |
| IPA DX動向2025(総括) | 日本の取り組みは社内の業務効率化を目指す「内向き」で、個別の業務プロセスの改善にとどまる「部分最適」の性質が強いと指摘。目的と成果がコスト削減、効率化に偏っている | 同上。日本、米国、ドイツの3か国比較にもとづく分析 |
| PMI Pulse of the Profession 2025 | 予算を守れたと答えた割合は、事業への理解度が高い層で73%、それ以外で68%。スケジュールは63%と59% | PMIが2024年に実施したグローバル調査(回答者2,254人)。業種と国をまたいだプロジェクト実務者が対象 |
説明会の回数と定着の関係、並行運用が長引く度合いは、会社ごとの条件によって幅があります。この記事では現場で繰り返し見る傾向として書いており、統計にもとづく数字ではありません。
よくある質問
業務改善プロジェクトで現場が動かないのはなぜですか
反対や理解不足よりも、通常業務との優先順位が示されていないことが原因になりやすいです。現場の1日はすでに埋まっているため、新しい手順を足すなら、止めていい作業を上司が名指しで指定する必要があります。指定がないと、現場では新旧の両方が残り、忙しい日に新しいほうが落ちます。
説明会を増やせば定着しますか
説明の回数と、実際に手順が変わる量はあまり連動しません。動くのは、止めていい作業が指定され、新しい手順でやったかどうかが記録に残り、直属の上司から確認が入る状態になったときです。このうち二つ以上が欠けていると、説明を重ねても元のやり方に戻ります。
業務改善の目標を作業時間の削減に置いてもよいですか
対外的な主目標に置くと、現場からは人員削減の材料と読まれ、実態のデータが出てこなくなります。削減した時間を何に使うか(接客に回す、残業を減らす、繁忙期の応援を減らす)を現場の上長と決めて先に公表してください。削減時間は途中経過の指標としては使えます。
最初に試す部署はどう選べばいいですか
いちばん困っている部署ではなく、協力してくれる部署を選びます。人員に余裕がある、業務量が平均的、上長が前向きの三つが基準です。余力のない部署で失敗すると「現場では無理」という評価が全体に広がり、横展開が止まります。
新しい手順を定着させるには何が必要ですか
古いやり方を使えなくすることです。帳票の回収、入力先の停止、共有フォルダからの削除を、期限を予告したうえで実施します。並行運用の終了日を決めずに始めた切り替えは、並行のまま終わりやすく、二重の負担が続くほど新しい手順が悪者になります。
この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と副業・業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。