部門横断プロジェクトの進め方|指示権限がない推進役が他部署を動かすには
部門横断プロジェクトで他部署が動かないのは、熱意や調整力ではなく立ち上げの設計の問題です。メンバーの選び方、兼任稼働の押さえ方、決める会議の作り方を解説します。
この記事でわかること
- 他部署を動かすのに要るのは権限ではなく、誰にいつまでにどの粒度で、まで決めた依頼の形
- メンバーは前向きさで選ばない。その部署の判断を代弁できる人と、実務を知る人をそろえる
- 兼任の稼働は割合で約束すると消える。曜日と時間で押さえ、メンバーの上司から承認をもらう
永瀬
PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。
ふたば
メーカーの経営企画。部門横断の業務標準化プロジェクトの推進役を任されたが、他部署への指示権限はない。
目次
部門横断プロジェクトの推進役を任される。関係部署に説明すると、どこも「協力します」と言う。それなのに、3か月たっても何も決まっていない。
指示権限のない立場で他部署を動かせるかどうかは、熱意でも調整力でもない。部門横断プロジェクトの進め方は、立ち上げのときに何を決めたかで、ほとんど決まっている。
「協力します」と言われて、何も進まない
ふたば(メーカーの経営企画。部門横断の業務標準化プロジェクトの推進役を任されたが、他部署への指示権限はない)
永瀬さん、各部署にはひととおり説明して、反対もされていません。ただ、依頼したことが返ってこないんです。
永瀬(PM専門エージェント)
反対されていないのは、賛成されているという意味ではありません。「協力します」は、いまの業務を止めてまではやらない、という返事です。
ふたば
そう言われると、たしかに期限は切っていませんでした。
永瀬
期限だけの問題でもありません。返ってこない依頼には、共通する形があります。誰に、いつまでに、どの粒度で、というところまで詰まっていない。「意見をください」と投げると、返ってきません。「この3案のどれかに丸を付けて、来週金曜までに返してください」なら返ってきます。
ふたば
相手も忙しいので、そこまで細かく指定していいものか迷います。
永瀬
逆です。相手の負担がいちばん小さいのは、考える幅が狭い依頼のほうです。丁寧に見える広い依頼が、いちばん後回しにされます。
ふたば
ほかの部署を動かすのに、権限が要るのだと思っていました。
永瀬
権限があっても、同じところで止まります。権限で動かせるのは作業だけで、判断は動きません。部門横断のプロジェクトで詰まるのは、たいてい判断のほうです。
部門横断プロジェクトのメンバーは、熱意で選ばない
ふたば
メンバーは各部署から1名ずつ出してもらいました。前向きな若手が多いです。
永瀬
前向きなのはいいことですが、選ぶ基準がそこだけだと、進み方が変わります。見るべきなのは、その人が部署に持ち帰ったものを、そこで決めて戻ってこられるかどうかです。
ふたば
決められない人だと、どうなりますか。
永瀬
会議のたびに「持ち帰って確認します」が出ます。翌週になっても答えが返ってこない。理由は本人の怠慢ではなく、部署の中で誰が決めるかが決まっていないからです。持ち帰りが2回続いた論点は、放置するとそのまま最後まで残ります。
ふたば
各部署の課長を出してもらうべきでしょうか。
永瀬
全員である必要はありません。1人でいいので、その部署の判断を代弁できる人を入れてください。あとは実務を知っている人でいい。二つの役割を分けて、両方をそろえるのが実務的です。
| 役割 | 誰を出してもらうか | いないと起きること |
|---|---|---|
| 判断を代弁する人 | その部署の業務を変える決裁ができる人、または決裁者から委任を受けた人 | 論点が毎回持ち帰りになり、同じ議題が翌月も出てくる |
| 実務を知っている人 | 現場でいちばん手を動かしている人。役職は問わない | 決めた手順が現場で回らず、運用開始後に元へ戻る |
| 記録を残す人 | 推進役自身、または専任で置く | 決まったことの解釈が部署ごとに分かれ、後から食い違う |
ふたば
部署によっては、出せる人がいないと言われます。
永瀬
その返事が来た時点で、その部署の優先順位は低いということです。無理に人を出させても、途中から会議に来なくなります。
出せないと言われたら、参加の形を落としてください。定例には出ない代わりに、決める会議だけ出てもらう。それも難しければ、その部署に関わる範囲を今回の対象から外す提案を、決裁の場に出します。外すと困る部署からは、人が出てきます。
ふたば
記録は、議事録でいいんですよね。
永瀬
決まったことだけでなく、決まらなかったことも書いてください。「この件は持ち越し。決めるのは営業部、期限は今月末」。ここまで書いておくと、翌月に誰も逃げられません。書式の話に見えますが、書かれる前提になると、会議の中で決着させようとする力が働きます。
兼任の稼働は、割合で握らない
ふたば
メンバーは全員、通常業務と兼任です。上司からは「2割くらいなら」と言われています。
永瀬
その2割は、まず守られません。割合での約束は、忙しくなった週から順に消えます。通常業務には期限と相手がいて、プロジェクトの作業には、たいてい推進役しかいないからです。
ふたば
では、どう押さえればいいのでしょう。
永瀬
曜日と時間で押さえてください。「毎週火曜の午後はこのプロジェクト」と決めて、上司にもその形で承認をもらう。兼任は割合ではなく、時間割で確保するものです。
ふたば
それでも会議が入ってしまいそうです。
永瀬
入ります。だから、そこは推進役が守る仕事になります。メンバーの上司に対して、この時間を空けておいてほしいと直接言えるかどうか。ここを遠慮すると、稼働は取れません。
ふたば
上司に話す、というのが少しハードルが高いです。
永瀬
最初の1回で終わるので、やる価値はあります。それと、頼み方を変えると通りやすい。「協力をお願いします」ではなく、「火曜午後の3時間を、9月末まで空けてください」と具体的に言う。断られたら、期間か範囲を削ります。断られたこと自体は情報なので、そのまま上に報告してください。
ふたば
上への報告は、どのくらいの頻度がいいですか。
永瀬
頻度より中身です。進んでいることだけを報告していると、止まったときに一気に信用を失います。決まっていない論点と、断られた依頼を必ず入れてください。
ふたば
断られたことを報告するのは、気が引けます。
永瀬
そこを隠すと、あとで推進役の責任になります。「営業部に火曜午後の稼働を依頼して、断られた」。これは報告すべき事実であって、失点ではありません。判断できる人に届けば、その場で解決することもあります。
キックオフで決めるのは、意気込みではない
ふたば
キックオフは、目的の共有と自己紹介で終わってしまいました。
永瀬
よくある形です。ここで決めておくと後が楽になるものが、4つあります。
- 何をもって終わりとするか。完了の条件を、期日ではなく状態で書く
- 決める場所と決める人。どの会議で、誰が最終的に決めるのか
- 決めなくていいこと。今回は触らない範囲を先に宣言しておく
- 止まったときのエスカレーション先。誰に持っていけば動くのか
ふたば
3つめは考えたことがありませんでした。
永瀬
これが効きます。範囲を宣言しないと、関係部署から「ついでにこれも」が集まります。断る理由がないので受けてしまい、半年後に何も終わっていない。やらないことを決めていないプロジェクトは、必ず膨らみます。
ふたば
4つめのエスカレーション先は、上長でいいですか。
永瀬
部門をまたいで効く人でないと意味がありません。自分の上長が他部署に対して弱い立場なら、そこに持っていっても止まります。役員でも部門長でもいいので、関係部署すべてに口を出せる人を1人決めて、その人にキックオフへ出てもらってください。出席してもらうこと自体が、後で効きます。
誰の担当でもない作業が、必ず出てくる
ふたば
部署の間に落ちる作業が、いくつも出てきています。結局、私がやっています。
永瀬
部門横断のプロジェクトでは必ず出ます。既存の組織図に載っていない作業だから、担当が決まっていない。推進役が拾い続けると、推進役の時間が全部そこに消えます。
ふたば
拾わないと、止まってしまいます。
永瀬
止めてください。正確には、止まっていることを見えるようにします。推進役が黙って埋めた穴は、誰にも見えないので、次のプロジェクトでも同じ場所に空きます。
ふたば
見えるように、というのは。
永瀬
担当が決まっていない作業を一覧にして、決める会議に出します。「この5件は担当が決まっていません。決めるか、やらないと決めてください」。この形にすると、たいていは決まります。決まらなければ、その作業は今回やらないものとして扱う。
ふたば
自分でやったほうが早い気もします。
永瀬
1件ならそうです。10件になると回りません。それに、推進役が実務を抱えるほど、決める仕事の時間が減ります。部門横断のプロジェクトで推進役がやるべきなのは、作業ではなく、決める場所へ論点を運ぶことです。
会議で決まらないのは、決める人がいないから
ふたば
定例は隔週でやっています。議題は毎回埋まるのですが、決まらないまま次に進みます。
永瀬
出席者の中に決められる人がいるか、確認してみてください。全員が「持ち帰って確認する」立場だと、その会議は情報交換の場です。決めるための会議として設計されていません。
ふたば
決裁者は忙しくて、毎回は出られません。
永瀬
毎回でなくて大丈夫です。定例で論点を溜めて、月に1回か2回、決める会議を別に置いてください。持ち込むときは、選択肢と、それぞれを選んだときに何が起きるかを1枚にする。選択肢は3つ以内に絞ります。
ふたば
資料は厚いほうがいいと思っていました。
永瀬
判断する人に必要なのは資料の量ではなく、選べる状態かどうかです。厚い資料は読まれず、その場で「持ち帰って検討」になります。
それと、決まらない論点は数えてください。件数が増え続けているなら、進め方のどこかが詰まっています。関係者が遅れの理由を別々に説明し始めていたら、通常の運営ではなくプロジェクト炎上の立て直しの段階に入っています。
ふたば
数えるところまで、手が回るでしょうか。
永瀬
そこは仕組みで減らせます。議事録から決定事項と宿題を抜き出す、複数の会議に散らばった同じ論点を1件にまとめる、前回からの差分を出す。この部分はいまはAIに寄せられます。人が出すのは判断のほうで、材料をそろえる時間は短くできます。
進め方を直しても、現場が動かないとき
ふたば
決める仕組みを整えても、現場が動いてくれない気もします。
永瀬
それは別の問題です。決まっているのに現場が動かないなら、原因は理解不足ではなく、通常業務との優先順位が示されていないことのほうにあります。そこは業務改善プロジェクトの進め方に書きました。
ふたば
推進役として、最初にやることを一つ選ぶとしたら何ですか。
永瀬
次の定例の前に、決まっていない論点を書き出してください。それぞれに、決める人と期限を書く。書けない行があれば、そこが止まっている場所です。人ではなく、決める仕組みのほうを先に直します。
参考データと出典
この記事の数字は、次のデータにもとづいています。調査の対象や集計方法によって数字は変わるため、時点と条件をあわせて確認してください。
| データ | 内容 | 時点・条件 |
|---|---|---|
| IPA DX動向2025 | 経営者、IT部門、業務部門の協調が「十分にできている」「まあまあできている」の合計は、日本が約4割、米国が8割弱、ドイツが6割5分程度。日本では成果が出ている企業ほど協調できていると答える割合が高い(図表1-15、図表1-16) | 調査期間は2025年2月上旬から3月下旬。日本、米国、ドイツの3か国比較。DXに取り組んでいる企業が対象で、部門横断プロジェクト全般を対象にした調査ではない |
| PMI Pulse of the Profession 2025 | スケジュールを守れたと答えた割合は、事業への理解度が高い層で63%、それ以外で59%。予算は73%と68% | PMIが2024年に実施したグローバル調査(回答者2,254人)。業種と国をまたいだプロジェクト実務者が対象 |
兼任の稼働が守られない度合いや、持ち帰りが2回続いた論点のその後は、会社ごとの条件によって幅があります。この記事では現場で繰り返し見る傾向として書いており、統計にもとづく数字ではありません。
よくある質問
指示権限がなくても部門横断プロジェクトは進められますか
進められます。他部署を動かすのに必要なのは権限ではなく、依頼の形と決める場所の設計です。誰に、いつまでに、どの粒度で、を指定した依頼は返ってきます。ただし、関係部署すべてに口を出せる人を1人、エスカレーション先として立ち上げ時に決めておいてください。
部門横断プロジェクトのメンバーは誰を選べばいいですか
各部署から、その部署の判断を代弁できる人と、実務をいちばん知っている人の二つの役割をそろえます。前向きさだけで選ぶと、会議のたびに持ち帰りが発生し、同じ議題が翌月も出てきます。持ち帰りが2回続いた論点は、放置するとそのまま最後まで残ります。
兼任メンバーの稼働はどう確保すればいいですか
割合ではなく曜日と時間で押さえます。「稼働の2割」という約束は、忙しくなった週から順に消えます。「毎週火曜の午後3時間を、9月末まで」と期間つきで具体的に依頼し、メンバーの上司から承認をもらってください。断られた場合は、期間か範囲を削ります。
キックオフで何を決めておくべきですか
完了の条件を状態で書くこと、決める会議と決める人、今回は触らない範囲、止まったときのエスカレーション先の四つです。触らない範囲を宣言しないと、関係部署から「ついでにこれも」が集まり、断る理由がないまま膨らみます。
会議で何も決まらないときはどうすればいいですか
出席者の中に決められる人がいるかを確認してください。全員が持ち帰る立場なら、その会議は情報交換の場です。定例で論点を溜め、月に1回か2回の決める会議を別に置き、選択肢を3つ以内に絞って持ち込みます。資料は厚さではなく、選べる状態かどうかで用意します。
この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と副業・業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。