DX推進はやめとけと言われる理由|求人票で見当をつけ、面接で確かめる5つの質問
DX推進はやめとけと言われる理由を、IPA「DX動向2025」の数字で整理します。人材の評価基準がない日本企業は75.7%。成果を測れない席かどうかを求人票で見当をつけ、面接で確かめる5つの質問を対話形式で解説します。
この記事でわかること
- DX推進がやめとけと言われる席は、仕事がきつい席というより、成果を測る物差しがない席だと編集部は見ている
- DX人材の量が不足と答えた日本企業は85.1%だが、評価基準がない企業も75.7%あり、不足と受け皿は別の話
- SIerのPM経験は導入後の効果検証まで任される席で生きやすく、評価の基準と報告先は求人票と面接で確かめる
どろん先輩
PM・企画職専門の転職エージェント「ネコノテキャリア」の中の人。オブラートに包まない物言いが持ち味で、相場も裏事情も聞かれれば正直に話す。少し口が悪い。
はじめ
SIerで業務システム導入のPMを8年。事業会社のDX推進部門の求人を見始めたが、「DX推進はやめとけ」という書き込みを見て、応募してよいか迷っている。
目次
DX推進の部署は「やめとけ」と書かれることがある。ネットの退職エントリや解説記事で挙がる理由は、会議と稟議ばかりで手を動かせない、目的があいまい、一人で社内の抵抗を受け止める、といったものだ。ただ、これは部署の名前で決まる話ではない。編集部の見立てでは、消耗するかどうかは、その部署の成果が何で測られ、誰がそれを評価するかが決まっているかで分かれる。
この記事は、SIerやコンサルでシステム導入のプロジェクトを担当してきた人が、事業会社のDX推進部門の求人について、応募前に求人票で席の当たり外れの見当をつけ、面接で確かめるためのものだ。数字は、IPA(情報処理推進機構)が日本・米国・ドイツの企業に聞いた調査「DX動向2025」(回答企業は日本1,535社、米国509社、ドイツ537社)から引いている。SIerから事業会社に移るときの経験の伝え方そのものは、SIerから事業会社PMへの転職で扱っている。
DX推進がやめとけと言われやすいのは、成果を測れない席に入ったとき
はじめ(SIerで業務システム導入のPM8年目)
事業会社のDX推進部の求人を見ていたら、「DX推進はやめとけ」という書き込みがけっこう出てきて。応募していいものか、手が止まっています。
どろん先輩(PM・企画職専門の転職エージェント)
やめとけと書く人の気持ちは分かります。ただ、DX推進という仕事そのものが悪いわけではないです。外れになりやすいのは、何をやっても成果に数えられない席。そこに入ると、会議と資料づくりで1年が過ぎて、職務経歴書に書けることが残らないことがある、と編集部は見ています。
はじめ
成果に数えられない、というのはどういう状態ですか。
どろん先輩
部署の目標が決まっていない。決まっていても「ツールを何件入れたか」だけ。そして、そこで働く人の評価の基準がない。この3つがそろうと、本人がどれだけ動いても、誰も良し悪しを言いにくいんです。
はじめ
目標が決まっていないなんて、そんなことありますか。DXって経営の大きなテーマですよね。
どろん先輩
IPAの「DX動向2025」に手がかりがあります。DXに取り組んでいる企業に、目的に対して成果が出ているかを聞くと、「成果が出ている」は日本が57.8%、米国が87.0%、ドイツが81.7%。「わからない」は日本が26.2%で、米国の5.1%、ドイツの6.0%より大きい。わからない理由で多いのが「DXの成果目標を定めていない」「成果の評価はこれから進める予定」でした。DX推進が「やめとけ」と言われる席は、仕事がきつい席というより、成果を測る物差しがない席だと編集部は見ています。物差しがなければ、頑張りは見えにくいし、失敗の理由も分かりにくい。そこで消耗するんです。
はじめ
逆に言うと、物差しがある部署なら、きつくても続ける意味はある、ということですか。
どろん先輩
そうです。編集部の見立てでは、社内調整や稟議は、DX推進部門では避けにくい仕事です。業務を変えるには、変えられる側の部署の合意が要りますから。調整の多さより、その調整が何の数字につながっているかを見てください。
「人が足りない部署」は、歓迎される部署とは限らない
はじめ
でも、DX人材は足りていないって、よく聞きます。売り手市場なら、どこに行っても大事にされるんじゃないですか。
どろん先輩
足りないのは本当です。同じ調査で、DXを推進する人材の量が「やや不足」「大幅に不足」と答えた日本企業は合わせて85.1%でした。米国とドイツは逆で、「やや過剰」「過不足はない」が合わせて73.6%と52.5%です。ただ、同じ調査には受け皿の数字も出ている。DXを推進する人材の評価基準が「基準はない」と答えた日本企業は75.7%。米国は10.0%、ドイツは18.9%です。育成の施策で「特に支援はしていない」は36.6%。人材の獲得・確保の方法を聞いた設問では、DXに取り組んでいる日本企業1,190社のうち19.4%が「人材確保を行っていない」と答えています。不足と答えた企業だけに聞いた割合ではありませんが、不足と答えた企業が8割を超える調査での数字です。
はじめ
足りないと言いながら、評価の仕組みも育てる仕組みもない会社が混ざっている。
どろん先輩
そう読めます。人が足りないことと、入った人を評価できることは別の話です。編集部の見立てでは、評価基準がない部署に入ると、昇給や昇格はほかの部署と同じ物差しで決まりやすい。DXの成果を出しても、その物差しに載らなければ評価に結びつきにくい。
はじめ
求人票には「DX人材を積極採用」と書いてあっても、評価のことまでは書いていないです。
どろん先輩
求人票に書いてあれば手がかりになりますが、無ければ面接で聞くしかない。聞き方は最後の節でまとめます。もう一つ、この数字は企業の経営層やIT部門が答えたもので、働く人の満足度を測った調査ではない点も覚えておいてください。部署の当たり外れに当てはめるのは、編集部の読み方です。
SIerのPM経験が生きやすいのは、導入の後まで任される席
はじめ
僕の経験は、DX推進部で評価されますか。業務システムの導入は8年やってきました。
どろん先輩
半分は評価される、と編集部は見ています。調査で、日本企業が最も不足していると答えた人材の類型は「ビジネスアーキテクト」でした。定義は、目的設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をコーディネートしながら一気通貫して推進する人材。関係者の調整と導入は、はじめさんがやってきたことです。
はじめ
残りの半分は何ですか。
どろん先輩
目的設定と、導入後の効果検証です。編集部の見立てでは、受託の案件は、要件が決まった状態で始まって検収で区切られる契約の形になりやすい。目的を決めるのも、導入して半年後に業務が本当に変わったかを確かめるのも、発注側の仕事だった。
はじめ
たしかに、稼働したあとの数字は、ほとんど見ていません。
どろん先輩
DX推進部門で問われやすいのは、その後ろ半分です。SIerのPMが外れの席を避けるには、導入の後の効果検証まで任される席かを確かめる。導入の件数だけを求める席に入ると、SIerでやってきたことを社内で繰り返すだけになって、目的設定と効果検証の経験が積めないまま年数が過ぎやすい。
はじめ
応募書類には、どう書けばいいですか。導入の経験しかないのに、効果検証までできると書くのは盛りすぎですよね。
どろん先輩
盛らないでください。稼働後に数字を聞いた案件があれば、1件でも書く。なければ、導入までの経験として書く。書き方の全体は、SIerから事業会社PMへの転職で扱っています。
| 経験 | DX推進部門で生きる場面 | 足りないことが多い部分 |
|---|---|---|
| 要件定義と関係部署の調整 | 業務を変えられる側の部署との合意づくり | 何の数字を良くするかを、自分で決めた経験 |
| ベンダー管理と進捗管理 | 外部の開発会社への発注と管理 | 発注するか、内製するか、止めるかの判断 |
| 稼働と移行 | 現場への定着の段取り | 稼働後の業務の数字を追い、効果を確かめること |
表は編集部の見立てで、統計ではない。「足りないことが多い部分」は、受託の契約は検収で区切られやすいという編集部の見立てから置いたもので、人によって違う。
会社の規模で、「DX推進担当」の中身は変わる
はじめ
大企業のDX推進部と、中小企業のDX推進担当だと、どちらがいいんでしょう。
どろん先輩
どちらがいいかは人によりますが、中身はかなり違います。調査では、DXの専門部署かプロジェクトチームがあると答えた割合は、従業員1,001人以上の日本企業で83.0%。100人以下になると20.7%まで下がります。米国とドイツは、どの規模でも85%以上でした。100人以下の会社で「DX推進担当」を募集していたら、専任は自分一人で、部署もチームもない状態から始まる可能性を考えておいてください。ネットで「一人で社内の抵抗を受け止める」と書かれるのは、この形だと編集部は見ています。
はじめ
一人だと、やっぱり消耗しますか。
どろん先輩
一人でも、社長が直接見ていて、成果の物差しを一緒に決めてくれるなら、むしろ裁量は大きくなりやすい。編集部の見立てでは、消耗しやすいのは、一人なうえに、報告先が決まっていない場合です。誰に何を報告すれば成果になるのかが分からない。
はじめ
大企業なら安心、というわけでもないんですか。
どろん先輩
部署やチームはあっても、成果の数字が違います。調査で「成果が出ている」と答えた日本企業は、1,001人以上で64.2%、100人以下で58.1%。大企業のほうが高いですが、米国の84.0%、ドイツの92.0%とは差がある。大企業でも、成果が出ているかを確かめるのは面接の仕事です。
はじめ
情シスの中にDX担当がいる会社もありますよね。
どろん先輩
あります。その形だと、問い合わせ対応や運用と兼務になっている席もあります。社内SE寄りの席の見分け方は、社内SEはやめとけと言われる理由で詳しく扱っています。DXで新しい事業を作る部署なら、新規事業の本気の部署を見抜く方法のほうが近いです。
求人票で見当をつけ、面接で確かめる5つの質問
はじめ
結局、求人票と面接で何を見れば、外れの席かどうか分かりますか。
どろん先輩
5つにしました。最初の4つは、ここまで見てきた調査の項目(成果の目標、評価の基準、部署の体制、効果の確かめ方)に合わせています。5つ目は、DX推進部が事業部側の業務の数字を見られるかの確かめです。「いつ確かめるか」の列で、応募前に求人票で見当がつくものと、面接で聞くものを分けました。表の答えの例は編集部の見立てで、統計ではありません。
| 確かめる質問 | いつ確かめるか | 外れの席の答えの例 | 続ける価値のある席の答えの例 |
|---|---|---|---|
| DX推進部の今期の目標は何で、誰に報告していますか | 報告先は、求人票の配属先や組織の書き方で応募前に見当をつける。目標の中身は面接で聞く | 目標はこれから決める。報告先は決まっていない | 業務の数字で目標があり、役員か事業部長に報告している |
| この部署の人の評価は、何で決まりますか | 面接で聞く。求人票に評価の項目が書いてあれば、応募前の手がかりになる | ほかの部署と同じ評価表で、DXの成果の項目はない | DXの案件の成果が、評価の項目に入っている |
| 部署は何人で、業務を変えられる側の担当者は誰ですか | 部署の人数は、求人票の部署紹介で応募前に見当をつける。事業部側の担当者は面接で聞く | 専任は一人。事業部側は兼務で、担当者は未定 | 事業部側に責任者がいて、案件ごとに担当者の名前が挙がる |
| 導入したあと、効果を確かめた案件はありますか | 面接で聞く | 導入の件数で報告している | 稼働後の数字を追い、続けるか止めるかを決めた |
| 事業部側の業務の数字(処理件数や作業時間など)を、DX推進部が直接見られますか。なお、案件を止める判断の確かめ方は新規事業の本気の部署を見抜く方法で詳しく扱っています | 面接で聞く | 見られない。案件のたびに事業部に頼んで出してもらう | 業務の数字を見られて、導入の前後で比べている |
はじめ
質問が直接的すぎて、面接官が嫌がりませんか。
どろん先輩
聞き方を変えればいいです。「入社したら、最初の半年で何ができていれば評価していただけますか」と聞けば、目標と評価の両方が分かる。答えに詰まるなら、それも判断の材料になります。
はじめ
5つのうち、いくつ当てはまったら避けるべきですか。
どろん先輩
編集部の見立てでは、評価の基準と報告先がどちらも決まっていない席は、ほかの条件が良くても慎重に考える。この2つがなければ、あとの3つが整っていても、成果が本人の評価に結びつきにくいからです。逆に、この2つが決まっていて、ほかが未整備なだけなら、整えること自体が仕事になります。立ち上げの経験として職務経歴書に書けます。
はじめ
面接で聞けなかったら、どうすればいいですか。
どろん先輩
オファーの前に、配属先の責任者と話す場をもらってください。求人票と面接だけで席の中身が読めないときは、PM・企画職を専門に扱うエージェントに、配属先に確かめてもらう方法もあります。
はじめ
今いるDX推進部が外れだと分かったら、すぐ辞めたほうがいいですか。
どろん先輩
すぐに決めなくていいです。まず自分で、担当する1件の成果の数字を決めて、上長に「これで見てほしい」と提案する。通れば、物差しを作った経験になります。議題にも上がらないなら、年数を重ねても書ける実績が増えにくいので、そのときに外を見てください。
参考データと出典
以下は、2026年10月22日に開いて中身を確かめた資料。本文の数字はすべてこの調査から引いた。
| データ | 中身 | 時点・条件 |
|---|---|---|
| IPA(情報処理推進機構)「DX動向2025」(本文PDF) | DXの成果が「成果が出ている」は日本57.8%、米国87.0%、ドイツ81.7%。「わからない」は日本26.2%、米国5.1%、ドイツ6.0%(図表1-7。DXに取り組んでいる企業が対象で、日本1,191社、米国391社、ドイツ366社)。日本の「成果が出ている」は1,001人以上64.2%、100人以下58.1%(米国84.0%、ドイツ92.0%)。成果が「わからない」理由で日本は「DXの成果目標を定めていない」「成果の評価はこれから進める予定」が多い。専門部署かプロジェクトチームがある割合は日本の1,001人以上83.0%、100人以下20.7%(米独はどの規模でも85%以上) | 2025年2月上旬〜3月下旬に調査(報告書では2024年度調査)。回答企業は日本1,535社、米国509社、ドイツ537社(報告書の調査概要に続く「回答企業の従業員数」の図表4-2)。日本企業は、公務を除く19業種の企業の経営層またはICT関連事業部門が回答。多くの設問は、DXに全社・一部の部門・部署ごとのいずれかで取り組んでいると答えた企業が対象 |
| 同上(人材の章) | DXを推進する人材の量が「やや不足」「大幅に不足」の合計は日本85.1%。米独は「やや過剰」「過不足はない」の合計が73.6%、52.5%。最も不足している人材類型は日本が「ビジネスアーキテクト」。「人材確保を行っていない」は日本19.4%(図表3-5。DXに取り組んでいる日本企業1,190社が母数で、量が不足と答えた企業に限った割合ではない)。育成で「特に支援はしていない」36.6%。人材の評価基準が「基準はない」は日本75.7%、米国10.0%、ドイツ18.9% | 同じ調査。企業側の回答で、DX推進部門で働く個人の働きやすさを測ったものではない。2025年7月9日公開の正誤表も確かめ、ここで使った数字に訂正はなかった |
外れの席の3つの条件、SIerのPM経験の当てはめ、求人票と面接で確かめる5つの質問は、上の調査をもとにした編集部の見立てで、統計ではない。
よくある質問
DX推進はやめたほうがいい仕事ですか?
編集部の見立てでは、仕事として避ける理由はありません。慎重に考えたいのは、評価の基準と報告先がどちらも決まっていない席です。IPAの「DX動向2025」では、DXを推進する人材の評価基準が「基準はない」と答えた日本企業が75.7%でした。報告先は求人票で見当がつくこともありますが、評価の基準は面接で確かめてください。
DX人材は不足しているのに、なぜ「やめとけ」と言われるのですか?
人材が足りないことと、入った人を評価できることは別の話だからです。同じ調査で、DXを推進する人材の量が不足と答えた日本企業は85.1%でしたが、育成の施策で「特に支援はしていない」が36.6%ありました。足りないと感じていても、受け皿が整っていない会社が混ざっていると編集部は見ています。
SIerのPM経験は、DX推進部門で評価されますか?
関係部署との調整と導入の経験は生きると編集部は見ています。足りなくなりやすいのは、目的設定と導入後の効果検証です。応募書類では、稼働後に数字を確かめた案件があれば1件でも書き、なければ導入までの経験として書いてください。
今いるDX推進部が外れだと感じたら、すぐ辞めるべきですか?
すぐに決めなくて構いません。まず担当する1件の成果の数字を自分で決め、上長に提案してください。通れば、物差しを作った経験として職務経歴書に書けます。議題にも上がらないなら、年数を重ねても書ける実績が増えにくいので、そのときに社外を検討してください。
登場人物は架空です。
この記事は、PM・PdM・企画職専門の転職支援「ネコノテキャリア」と業務委託の案件紹介「ネコノテエキスパート」を運営する株式会社スナネコが、実務知見に基づいて制作しています。